米澤進吾 本研究科物理学・宇宙物理学専攻助教、前野悦輝 同教授、高津浩 工学研究科特定講師および国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下NIMS)の量子物性グループ、アメリカ強磁場研究所(フロリダ)、オランダ強磁場研究所、首都大学東京の研究グループは、非磁性で良導電性のパラジウム-コバルト酸化物において、導電性が磁場により変化する磁気抵抗効果を測定したところ、磁場とともに抵抗が減少し導電性が大きく増加する現象(負の磁気抵抗効果)を観測しました。非磁性で、かつ豊富な伝導電子により導電性が高い物質において、負の磁気抵抗効果が観測されるのは初めてです。
本研究成果に関する原著論文は、英国科学誌Nature Communicationsのオンライン版に3月29日(火曜日)19時(日本時間)に掲載されました。
研究者からのコメント
この研究成果は、非常に質の良い試料を使っての精密測定ができたことと、「トポロジー」という新しい視点によって従来から知られていた物理学の法則を見直したことから生まれました。金属に磁場をかけると通常は電気が流れにくくなります。例外として、磁石になりそうな金属では磁場中で磁性の揺らぎが抑えられる結果として電気が流れやすくなります。今回用いた酸化物では電子は極めて単純な状態で磁性の働きも無く、なぜ電流と平行に磁場をかけたときに電気がさらに流れやすくなるのかは、際立った実験結果が得られた後でも全く謎でした。しばらくして米国の理論物理学者たちが、最近話題になっているトポロジカル半金属の負の磁気抵抗メカニズムとのアナロジーからこれが説明出来ることを明らかにしました。用いた物理法則は従来から知られたものでしたが、条件が揃うとトポロジカル物質と同じ式が導かれ、負の磁気抵抗が説明出来たのです。
新しい機構の負の磁気抵抗効果が理解できたことで、一つの物質のみで現れる特殊な現象ではなく、かなり普遍的な現象であることも実証できました。層状で導電性の良い非磁性物質のさらなる開発によって、より低い磁場でも大きな負の磁気抵抗が起こるデバイス・センサーの開発につながるため、物質開発の面でも新たな指針が生まれました。
概要
磁気抵抗効果は、磁性を利用したハードディスクなどさまざまな場面で応用されており、大きな磁気抵抗効果を示す新物質の探索を含めて精力的に研究が行われています。また、負の磁気抵抗効果は磁性材料や不純物半導体などで観測されています。一方、非磁性で導電性が良い物質(伝導電子が豊富にある金属類)では、磁場をかけると物質内の伝導電子が衝突しあって抵抗が増加する「正の磁気抵抗効果」が見られますが、このような物質群で大きな負の磁気抵抗効果が観測されたことがありませんでした。
今回研究チームは、パラジウム-コバルト酸化物という非磁性の導電性物質で、負の磁気抵抗効果を観測しました。この物質は層状構造を有しており、パラジウムから構成される2次元平面が極めて良い金属的導電性を担います。また、この物質は磁気的な性質を持たないことから、負の磁気抵抗効果を示さないありふれた導電体の一つとしてこれまで認識されていました。ところが、パラジウム伝導面に垂直方向に磁場をかけると、磁場方向の導電性が著しく増加する(抵抗が減少する)負の磁気抵抗効果が観測されました。磁場中の電子状態の解析から、その発現メカニズムも明らかにしました。
さらにパラジウム-コバルト酸化物のみならず、姉妹物質である白金-コバルト酸化物や、他の層状導電性酸化物であるストロンチウム-ルテニウム酸化物においても同様に負の磁気抵抗効果が観測されました。今回の一連の実験結果は、非磁性で導電性が良い物質において、負の磁気抵抗効果が普遍的な現象であることを示しています。これらの結果は、基礎学術研究の観点から非常に興味深い現象であるだけでなく、今後同じ機構で発現する磁気抵抗効果を示す物質の探索や、デバイス・センサーの開発といった応用面にも新たな指針を与えるものと期待されます。
詳細は、以下のページをご覧ください。